アタクシが読んだ、あるいは聞いたことなどいくつか。
Wikipedia仏語版の該当ページが長くなってます。また、リテル個人サイト内の audio,video ページ上から三番目のリンクで、これはめずらしいですが Radio Canada への長い、完璧なフランス語でのインタヴューが聞けます。
- 人、ジョナサン・リテルは1967年ニューヨーク生まれ、父親はニューズウィークの記者にして著名なスパイ小説作家ロバート・リテル。3歳のときにフランスに渡り、パリのリセ・フェネロン(6区)で学び、バカロレア後アメリカのイェール大学で3年間仏文学を習得。両親ともにアメリカ人。
ウィキによると母親はフランス人だそう(11月16日訂正:資料としたウィキペディアもル・モンドインタヴュー後訂正されていました。)。パリでは多くの米人子弟がアメリカンスクールやインターナショナルスクールで勉学するケースが多いのですが、彼はフランス語で基礎教育を受けてるんですね。また家族は19世紀末にポーランドから米国に移民している。大学後、彼はAction contre la faim のメンバーとしてチェッチェン、コンゴ、バルカン半島、モスクワなどで働いています。シエラ・レオーネ、ルワンダなど各地でのヒューマニタリアンとしての経験がある。現在は国境なき医師団メンバーである奥さんの任地先、バルセロナで2人の子供とともに家庭を持つ。 - 著作、少年時代すでにライターである父親(CIA、KGBの専門家)のために文献探しを担当していたとか。1989年にはサイバーパンクをテーマとしたBad Vitage というSF作品を書いているようです。またThe Security Organs of the Russian Federation. A Brief History 1991-2004 という、ロシアにおけるシークレット・サービスに関する英語での長いレポートがあって(2006)ウェブで読める。以前にはサドの翻訳もやっていたらしいリテルは、ブランショ、バタイユ、ボードレールやジュネを読み、ロシア語、セルビア-クロアチア語も使う。ただ、ドイツ語は出来ないようで、小説内のドイツ語用法が間違っていると言う指摘もままある。
- Les Bienveillantes、レ・ビアンヴェイヨントと発音しますが、話は1941から4年間にわたったドイツ軍の東戦線での動きが、Maximilien Aue という当時三十台SS士官だった男の独語と言う形で語られます。少年時代をフランスで過ごしたこの男は、敗戦後戦争犯罪追求を逃れフランスに渡り、家庭を築き仕事にも成功する。しかし彼にはホモセクシャリティ、そして双子の妹との近親相姦という影がある。同時にフランス文学に対する大きな知識と、明晰さを持ち合わせてもいる。。。
- 出版そして文学賞、アカデミーフランセーズとゴンクールの二賞を獲得したわけですが、家のあるバルセロナに残り、授賞式には不参加。『文学とは文章によって語られるものであって、作家が姿を見せる必要はない』といった意味のことを言っている。また、TVにも出ない(TVが家にはないんだそう)。長い準備期間の後、四ヶ月で書き上げられたこの小説は、父親ロバートの英国エイジェントを通して仏人匿名でフランス出版社に送られた。出版を決めたのがガリマールです。900ページを越える手書き原稿を、米語的表現や句読点などの変更を中心に校正後、この夏文学批評家に送られた。それ以来、まず批評家の間で話題となり、雑誌記事になり、また読者の口コミで、この手の本には前代見ものの発行数を見せたんですね。宣伝にTVなどのメディアは使っていない。ゴンクール賞は結果としての受賞とも言える。
- 外国での出版、ドイツ・米国・イスラエルなどでの版権契約はすんだらしい。本来ならガリマールのドル箱になるはずが、英国のエージェントがフランス以外での版権を有しているようです。なお、以前のブログに書きましたが、英語化を作者自身がするつもりだったが、カナダ放送でのインタヴューでは今再考中だそうです。この作品の翻訳に一年以上かけるのはもういやだ、とか言ってますね。そりゃ、大変だ。
- 猫屋の印象、といっても問題本、やっと220ぺージあたりなんでいい加減なことは言えないですし、またナチズム・ホロコーストを扱った映画は見ていても文学作品は他に読んでいない。これに似た本はあったかというと、それも見つからない。しいて言えば、暗さと強さではセリーヌ、あるいは「カラマーゾフ」を思い出しました。そして21世紀文学というのがあるとしたら、コンセプトの点でも、文献の使い方にしても、視点にしても、これは21世紀メジャー小説のひとつになるだろうと考えます。同時にリテルという人間自体が極めて冷戦後の、国境を簡単に越える人を体現している。自己を『ヨーロッパ人』として捉え、米国籍は単なるパスポートの問題だ、という彼には共感を持たざるを得ません。
と、思いついたまま書いてみました。ホントウの読後感は読了後に。また、カナダ放送でのインタヴューは興味深いものなので、聞いてみることをお勧めします。なおこれから読んでみようという方へ:小説最初部分の虐殺シーンを含む部分はかなりシンドイですが、そこを越えると案外“ラク”になります。
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