Gus Van Sant の映画 Last Days を観た。言いたいことはたくさんある。少し発酵させてから書く。
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などと、写真アップしたのは12日。発酵熟成のつもりが、映画見たあとニルヴァーナ聞きすぎでしょう、拡散ばかりで困ってます。始めた以上は終わりまでちゃんとやんなさい、とは亡き母の言葉。書いてみます。
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いい映画です。ただ、誰にでも勧められる作品ではない。60年代のヌーヴェルヴァーグや米国インディペンデント系の“実験”映像に慣れた人は大丈夫かな。若いカート・コバインファンも好きになるかもしれない。でも、ちゃんとストーリーがないと、ちゃんと主人公に感情移入できないと、全部理解できないと駄目、というタイプの方には合わないだろう。
伝説ロック・グループ NIRVANA のカート・コバインが死ぬ前の二日間を、“エレファント”を作ったガス・ヴァン・サント/Gus Van Santがフィクション化したのがこの映画です。主人公の名は Blake に変えてある。演じたのはマイケル・ピット。彼自身、ロックをやってて映画の中で出てくる2曲は彼の作ったもの。特にアコースティック・ギターで歌う“Death to born”はそれからのシークエンスにはまり過ぎ。
ですが、ニルヴァーナの曲を聴きたくてこの映画を観るとがっがりします。ニルヴァーナに引っ掛けた話はそこここに見えてくる。“アポロジャイズ”に関するアネクドットとか、ドラッグ中毒治療中に病院から逃げてきたブレイクはまだプラスティック製のブレスレッドを腕に付けたままだとか、いろいろ。私は見逃しましたが、最後のクレジットのおしまいにコバインの遺書がTV画面に映るんだそうです。もう一回この映画観て確認するつもり。
コバインはサウスポーだったけど、マイケル・ピットは右利きですね。よく見ると顔はぜんぜん似てないんだけど、ブロンドの髪の感じはほんと、MTVライブで観たコバインそのものです。
暗いテーマなのに、奇妙にコミックなシークエンスがある。冒頭のキッチン場面で、ブレイクはミルクじゃなくってシリアルのほうを冷蔵庫にしまうんです。同じ台所で、冷凍してあった“ヤク”を解凍するとか、インスタントのマカロニ・グラタンをつくるところとか。グランジな服の着方見本とか、いろいろ。
黒い女性用アンダー・ウェアにブーツ、アイ・メーキャップしたブレイクが間違ってやってきたイエロー・ページのセールスマンにまじめに対応するシーンがあります。ここでのヴァン・サントは実にうまい。調べたら、ブラックのセールスマンを演じるのは本物のセールスマン。たまたまスタッフの打ち合わせとかしてた時にセールスに来たおじさんだそうです。たぶん、このシーンはブレイクがちゃんと会話する唯一の部分だったと思う。
場面間の時間的、あるいは理論的一貫性はない。でも一種のFLUIDE/流動性感覚はあるし、暗い話なのに一種の“救い”のようなものもある。これは“平静”といえるかもしれない。
不思議な映画です。 映像や、音響のテクニックはまったく知りませんが、音のとり方はエレファント同様に凝ってるし、人物の“自由な、あるいは自然な”動きには、初期ゴダールを思い出しました。
最後に近く、小屋の中に横たわるブレイクの体から裸の半透明ブレイクが抜け出して、はしごを昇ってくんですね。(ネタバレすいません) これを、キリスト昇天に引っ掛けたイメージとは私は思わない。真理を語るものとしての聖なる狂者/アーティスト、コバインへのヴァン・サントのオマージュ/賛歌と私は受け止めました。
コマーシャルな現代に、コマーシャリズムに乗ったロックや映画作品の中にも、伝わる真理はある。これも“奇跡”のひとつだと思います。映画の公式サイト。
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今日の拾い物、というか翻訳したかったけど出来ない記事:ル・モンドから《"On est les enfants des fous. Bien sûr qu'on est sages ! La folie, c'était leur luxe..."》
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