尼崎でのJR宝塚線電車事故はフランス・メディアでも大きくとりあげられている。マンションにへばり付くようにひしゃげた車体は冷凍食品のアルミホイル容器を潰した格好か。でも中の人が。。。21日にはインドはボンベイ近くの駅でも列車衝突事故があって少なくとも24人の死者が出ている。列車利用がごくごく一般的なインドでは年間300の列車事故が発生しているのだそうだ。--- スマトラ沖津波時、乗客ごと流された列車の映像もありました。
尼崎の事故が外国でも大きく報道されているのは、神業にちかい日本の列車運行状況が国外でも良く知られるようになっているからでしょう。そんなタイム・テーブル完璧主義・ノー欠陥システム神話の日本でも列車事故が、おまけに住宅密集地で起きてしまったことに誰もが驚いている。
パリでも、大きな近郊通勤列車事故が16年前にあった。もちろん郊外通勤列車の本数や乗客数など、特に16年前のパリと今の日本都市交通のそれとは比較はできないのだが、どういった人為ミスの重なりが大きな悲劇を生んでしまうのか、その時の様子をネット資料を見ながら書いてみます。
夕方のリヨン駅に停車中の列車に、ブレーキが効かなくなったもう一本の通勤列車が突っ込んだのです。死者数は56名、負傷者57名。尼崎での車両よりは剛健だったと思えますが、TVで見た映像は今でも良く覚えている。ジュラルモン製の(と思う)車体のなかにもうひとつの車体が完璧な入れ込み状態になってしまっていた。
夏休みも直前の6月27日(月)の午後7時10分。パリ・リヨン駅地下ホームから出発しようとしていた列車に、パリ近郊ムーランからの列車が時速60キロ(70キロ説もあり)の速度で追突。突っ込んだ列車の運転手は乗客に車内後方に移るよう指示していた。けれど死傷者の大部分は押しつぶされた列車内の乗客だった。この事故は、少なくとも20の人為的な間違いが重なって起こっている。いくつか箇条書きしてみる。
-ムーランからの上り列車、153944の乗客の一人(女性)は6時30分の時点で列車の緊急停車レバーを引き、線路上に降りる。該当列車は各駅停車ではなく快速で自分の利用駅には停車しない。学校に子供を向かえに行かねばならないのに、彼女はすでに約束の時間に遅れていた。
-列車内の運転手と助手は作動された緊急停止レバーを元の位置に戻すが、緊急アラームが鳴り止まないため、運転手はいったんすべての機能をシャットダウン。改めてシステムの再起動を試みるがブレーキはロックされたままで列車は動かない。ブレーキ作動レバーを再度引いた運転手は列車からおりて第一車両のブレーキが作動状態にあることを緑のランプで確認するが、実際にブレーキが機能する状態だったのは第一車両のみで、残りの車両のブレーキ装置は切れた状態のままだった。この緊急停車時間26分間。
-列車が再び走り始めた時、運転手は低速での“テスト”なしで時速100キロまで加速している。ブレーキが効かない事に気づくのはその後パリ住宅街に入ってから。
-のちに追突される駅地下ホームに停車する列車は本来夕方6時4分出発のはずが、コントローラー(助手)が遅れ、6分後の発車直後に目前から時速60キロで別の電車が突っ込んだ。該当コントローラーはホームで乗客から質問を受けたのが遅れの原因だと主張したが、証拠は提出されていない。この遅れの間に乗り込んだ乗客で、この郊外列車はいつもより乗車率が高かった。(ちなみにこの線は30分に一本の発車)
-列車153944の運転手はリヨン駅に緊急地上電話連絡。これは追突の1分30秒前。パニックした運転手は“ブレーキが効かない、駅地下構内のすべての列車を止めろ”と叫ぶが、列車番号や自分の名などの伝達を忘れる。この緊急連絡を何回か繰り返した後、運転手は運転室を離れて車両に移り、乗客達に床に伏せるよう指令。
-管制室は騒然となり、各列車からの連絡音声がノイズ化。また路線管理者は適切な処置、たとえば地下ホーム停車中のすべての車両の駅退去にかかる代わりに、緊急連絡を発する車両の割り出しに時間をかけた。(この事故以降、フランス国鉄は列車連絡電話の個別入力ができるように改良している)
-ダイヤ表示板で該当列車が近づくランプ点滅を見ながら、路線管制官は該当列車を空の路線に引き入れるかわりに、地下駅周辺の信号を赤にするボタンを押す。これによって路線入れ替えシステムは固定されてしまった。
-該当地下駅は突端にショック防止装置がある行き止まり型。これが地上で線路が続いていれば停車中の車両退去も可能だった。
-列車153944には効かなくなったブレーキのほかにも、速度を下げることができる電気ブレーキが装備されていたが、運転手はそのブレーキについての知識がなかった。
参考:いくつか写真が載っているサイト
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フランスでもパリ周辺での人口集中と不動産ブームによる住居費高騰で郊外に家を構える低・中所得者層がどんどん増えています。日本ほどではないものの、パリ近郊線やTGVを使う遠距離通勤客は増えても、フランス国鉄/SNCFは人員削減を進めており、これが相次ぐ国鉄ストの理由のひとつ。
尼崎列車事故では置石の可能性も言われていました。TGV沿線の歩道橋の上から走る列車めがけて石を投げる子供の話は聞いたことがある。
あと帰国時、特に成田から東京に入る路線など列車と家屋の間の距離が近くて恐いなあと思った記憶があります。
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昨日はパリ北部でモン・サン・ミッシェルに向かう観光バスが高速から転落、関西からの邦人観光客3名の方が亡くなっています。日本旅行がチャーターしたバスだった。死傷した方々の御家族は事故地が遠いことも重なり、大変だと思います。
西ヨーロッパでの観光バス事故全体が多くなったように感じる。長距離観光バスは鉄道に比べると安いし、大体風光明媚な土地は鉄道路線から遠い。もちろんバスツアー価格競争もあって、大陸横断に近い距離を交通量の多い休暇中にこなすバス運転手の労働条件はますます厳しくなってきている。大型トレーラーの行き来も激しい。安全規制はあっても、失業を恐れてノルマをこなそうとタイムレコーダーをごまかすドライバーも出てくる。
機械の精密度は高くなっても、人間は機械にはなれない。そして人間が作った、そして人間が操作する機械もシステムも完璧ではありえないでしょう。もっと早く、もっと安く、もっと大量にという一種の食欲過多症、あるいは強迫観念は人間本来の特性なのでしょうか。
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