今日7日、ローマで行われたニコラ・カリパリ(50歳)の国葬には、政府関係者をはじめ、カリパリ夫人と19歳と13歳の娘2人、そして教会周辺は約2万人のローマ市民で埋め尽くされていた。
ラジオやTVで見聞きしたいくつかの事例を挙げてみたい。
・事件が起こった後、ブッシュ大統領はイタリアのベルルスコーニ首相に“アポロジャイズ”の電話をしている。だがこの電話は5分間という短いものだった。
・事件発生時は夜だった。前回の仏ジャーナリスト2名マルブリュノーとシェノーの解放も夜だったが、空港付近の危険性を考慮した仏情報局は夜が明けてから元人質を移動させている。これはイタリアサイドのプランの弱さだったと言える。
・ワシントンポストの記事によると、匿名米兵の証言では、イタリア軍から米軍に、解放されたジャーナリスト、ジュリアナ・スグレナ移送についての連絡はついていた。けれど現地の軍隊内の横の連絡網が確立されておらず、米サイドからの移送へのサポートなども皆無だった。
・ジュリアナは引渡しに向かう時点で目隠しされ、イタリア解放チームに引き渡されて目隠しを取った時 『ジュリアナ、ジュリアナ、私はニコラだ。ガブリエーレー・ポーロ(ジュリアナが属する新聞イル・マニフェストのディレクター)と話したところだ。君は自由なんだよ。』 とカリパリは話をはじめ、車が狙撃されるまで(ジャーナリストを落ち着けるためだろう)冗談も交えて話し続けていたという。また、“国境なきムージャイディン”メンバーは解放前に『アメリカ人に気をつけろ。アメリカ人は君が帰ってくるのを望んでいない』とジュリアナに忠告したと言う。
・TVニュース(フランス2)によると、該当車を狙撃したのは、6日前にバグダッドにやってきたばかりの無経験の兵士だった。
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米国でもメディアがこの事件を取り上げている。ただ、米国での読みはあくまでイラクの泥沼状態提示でしかないんじゃないか。
ここ欧州での米国批判の盛り上がりは違った意味合いを帯びていると思える。欧州の市民の多くが米国の意図するイラク攻撃に強く反対した。これはイタリアでも同様だった。しかし米国政府は攻撃を強行し、市民の意図に反してイタリア・英国・当時のスペイン政府は米国の望むように自国の軍隊をイラクに送ったわけだ。(スペインでマドリッドでのテロを受けての政権交代があり、撤兵したのは皆様御存知の通り)
ブッシュ大統領は再選後欧州まで足を運び、フランス・ドイツに歩み寄りの姿勢を見せた。米国と欧州の関係緩和は欧州市民にとっては一種の安堵でもあった ---ブッシュ大統領がガバメントするスーパーパワーに嫌われて、誰が喜ぶもんかね。マダム・ライスの説明を聞いたら、なんだ欧州もあんがい認められてんじゃないとか考えるわけで--- そうしたら今回の事件が起こった。
イタリアに関して言えば、2003年11月イラク南部で19人の特殊部隊兵士がテロで殺されている。人質も2人殺害された。米政権が言い張っていた内容とはまったく逆に、現実のイラク情勢はできれば目を背けたい泥沼状態をなしていた。一回のテロの犠牲者が100人を超えた。カリパリの死を見ても、米軍がジャーナリストや同盟国の保安にかまっている暇も人材もないのは明白だ。イタリア市民が怒っているのは必ずしも陰謀説を信じているからではない。国民の意思に反して出兵したにもかかわらず、米国がイタリアを正当にはあつかっていないからだ。
もっと単純に書けば、アメリカはこの戦争を仕掛けるべきではなかったからだ。こんなにたくさんの血を流させる必要などなかったからだ。
決してテレビ画面に映し出されることのない米軍兵士の死体の数の、すくなくとも十倍のイラク人が死んでいる。イラクは世界中の“テロリスト”のトラップ(罠)となってしまった。選挙さえすれば民主主義、という具合にことが運べば世の中は簡単だが、シーア派がイニシアティヴを取り、スンニ派は非合法活動を続け、クルド人が独立を望むといった情況が民主主義の基盤になるのだろうか。少数者の権利を踏みにじる制度は国家枠自体の崩壊を招きかねないのだ。今回の事件でもイラク政府の介入なり、コメントなりはどこにもない。イラクとは米国軍に占領された国であり、しかもその占領軍は占領自体のキーである首都空港周辺の保安さえ管理できないでいるわけだ。
ラムズフェルド国防長官の退陣が間近いらしい。後釜はパウエルと共にリタイアしたはずのアーミテージの名があがっているようだ。ブッシュ再選後、ラムズフェルドが国防長官職を継続したのは、イラク戦後処理の失敗を認めないというブッシュ政権の意図だったのだろう。首の挿げ替えがあるとすれば、それは米政府幹部がイラクでの失態を(やっと)認めたことになる。(アーミテージが国防長官ということは米国が国防ポイントを中東からアジアにシフトするということか?何をどうシフトするつもりなのかはワカランが、、)
アメリカ軍はイラクから撤退すべきだ。それ以外に現在のイラクの罠から抜け出す方法はない、と思う。
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追記:米国国連大使にボルトンが任命された。ネオコン主幹の一人といわれるボルトンは、米国イラク攻撃推進者でもあった。またイラン・北朝鮮に対する米国強硬政策派、国際刑事法廷への米国批准反対論者、だいたいが国連不要論のヒトである。個人的には、イラクでの失敗はどっか他のところで騒ぎを起こしてごまかそう、、などと考えそうなのでこのノミネートってやばいんではないですか、と思ってしまうのだが。。。
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右上の写真は拘束されて2ヶ月たつリベラシオン記者フロランス・オウドゥナと通訳のハヌン・アル・フセイン
なお、フロランス記者人質事件関連記事はmedia@francophie ブログで日本語で読めます。
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