メキシコ湾でのBPディープ・ウォーターホライズンの原油流出もどうにかストップされたと思ったら、今回はロシアの猛暑と森林火事が大変なことになっている。パキスタンとインドではモンスーンの影響で洪水。中国では地すべり。
6月にモスクワに行ってきたM君によれば、モスクワ市内では高級アパートにもエア・コンディショナーはないのだとか。たしかに、夏季の平均気温が23度のはずのロシアは、シベリア地区でさえ35度を軽く越す今年の夏はたしかに“例外”的暑さなのだ。
ここ、パリ郊外でも6月は“例外的”暑さで、冷房装置のない都市近郊列車もメトロも天火のように熱して、おかげさまで半若隠居状態のアタクシはひたすら自宅待機。あの暑さはまるっきり南仏やスペインの夏風だった(足りないのは蝉の鳴き声+海)。あの熱波が7月はヨーロッパ西部から移動してロシアに腰を落ち着けたんだろう。
こちらの気象専門家によれば、地球温暖化の影響で熱波や豪雨もいったん発生すると規模は大きくなる傾向にあり、インド洋と太平洋の海水温度上昇がモンスーンの規模拡大につながっていると考えられるが、ロシアの異常気候とアジアでのモンスーン猛威との間になんらかの関連があるかどうかについて、今の時点では判断できないのだそうだ。参照リベから:Climat: «Nous n'avons jamais observé des températures aussi intenses»
これまでロシア政府は、コストのかかる防災予算・公共インフラ設備予算をカットしてきた。結果ロシアの消防夫の数も大幅に減り、たとえば消防車もかつてのソビエト時代のものを使っている場合がほとんど。中央集権単一党独裁の性格上、夏休みに入ってデサイダーたち(中央政府・モスクワ市長)の不在が、対処の遅れにつながったと見られている。
この1ヵ月の気温が35度から40度を記録するモスクワ市では死亡率が2倍にあがったと推測されているが、同時に懸念されるのは、原子力設備(民間および軍備・核廃棄物ストック)への火災の影響と、チェルノヴィリ事故後、樹木内に蓄積された放射能が火災によって大気に放出され、雲とともに移動し雨として降る可能性だ。
おかげさまで1986年の事故の際、汚染雲はフランス国境を避けて通った(←当時の仏政府公表)わけですが、今回はどうなるんだろう。。。参照ル・モンドから:Trois sites nucléaires russes sont menacés par les incendies
これも:Moscou respire un peu, des zones de pollution radioactive touchées par les incendies
こちらもル・モンドから:Les incendies en Russie : risques et responsabilités politiques de Vladimir Poutine
同時に、心配されるのは(報道されることは少ないが)、物価高と暑さにあえいでいるはずの人々だ。ロシア各地の公務員・失業者・退職者たちの多くは郊外の小屋つきの小菜園でジャガイモや野菜を作り、わずかな年金あるいは給料の足しとしていた。その最後の頼みの綱が灰になったら今年の冬を乗り切るための食料ストックなしということになる。参考:médiapart から、La tragédie russe des jqrdins où brùlent les provisions de l'hiver.
こちらはブルームバーグ日本語関連記事:ロシア:猛暑で死者1万5000人、経済損失1兆3000億円相当に
プーチン首相は本年度末までの小麦輸出停止を公表し、一時は小麦価格が上昇したが、今のところは価格は安定してるようだ。だが、ロシア猛暑以前に、年の初め120ユーロだったトン当たりの小麦価格は200ユーロに上昇していた。ロシアの小麦輸出は世界輸出入量の8パーセントで、各国のストックも充分あり、冬季には南半球(オーストラリアやブラジル、アルゼンチン)の小麦刈り入れもあるから、穀物不足の心配は実際はないんだが、各国の低金利政策で膨大したし、同時に株式市場を敬遠した‘キャッシュ’が穀物やカカオ、原料相場でのスペキュレーションを活発化していると考えたほうが正確だろう。
ロシア経済は原油・天然ガスに大幅依存し、モスクワ株式市場に上場する企業もほとんどがその関連株。同時に一般化した汚職と現金の海外流出(ロンドンや南仏での不動産購入を現金で行う‘ロシア’人も多い)、森林管理の民営化(=消防・森林管理員数の大幅減少とパルプ産業拡大)そして国内生産業再開発と公共設備メンテナンスの遅れが今回のロシア猛暑・森林火事の被害を大きくした要因だろう。
BP原油流出も、短期での利潤追求と安全保安基準の無視が根底にある。参照:slate.fr から原油流出クロニクル、Forage en eaux profondes: le bricolage post-catastrophe
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今日(水曜日)にはモスクワで小雨が降り、気温も若干下がったようだが、乾ききった土中を伝って燃え広がるロシア中の森林火事を消し去るためには、大量の降雨が必要と報道にはある。
経済成長のみを重視し、短期的利潤を狙う短期的投機のもたらした結果がこのカタストロフの連続であり、金融産業・教育産業・医療産業・軍事産業・建築および不動産・大型農工業といった新しいフロンティアを潤してきた‘キャッシュ’は、いつのまにか有形無形の巨大‘債務’に姿を変えた。この債務は、現在の米FRBが自ら買い戻すと公表した米債券ばかりではなく(FOMCの出口戦略後戻り、保有債券2兆ドル維持へ-回復は予想以下 )、世界各地で同時に進む失業問題・自然破壊・社会問題・先進国の第三世界化・不動産バブル崩壊・内戦(以下略)といった現象でもある。
過去の経済危機、日本の不動産バブル崩壊・1997年のアジア通貨危機・ロシア財政危機・スエーデン財政危機・アルゼンチン破綻、2001年の米ITバブル崩壊とこれまでも世界経済は多くの危機を経験してきたわけですが、今回の米国サブプライムに始まった動きも、2年経って震源地アメリカに戻ってきたようです。おまけに、今回は一国の国境内に限定されたものではなく、そのダイナミズムは世界金融網を伝ってTsunami のごとく広がっている。
気候変動・自然保護に関してはコペンハーゲン合意の破綻、経済ではトロントのG20、金融レギュレーションでは米国の金融規制改革法案も当初考えられていたボルカー・ルールからはほど遠いアナだらけの規制で、‘世界規模の’ガバナンスのはずが、結局は各国政府の利益(=各国におけるドミナントな層の利益)をそれぞれに主張する場となっている。
この流れは、EH・カーが《The Twenty years' Crisis, 1919-1939》 で描いている二大戦間の国際連盟での軍縮交渉を思い起こさせます。かつての連盟国はそれぞれの軍備を自国の平和保持のためと称し軍縮案を拒み続け、反対に軍備拡張に励んだわけです。結果はみなさん御存知のとおり。。。
たとえば、‘核戦争’の脅威つまり、リアルな全面戦争は自己破壊に至るというおぼろげな‘認識’=‘コンセンサス’の‘共有’以来、‘内政の延長としての戦争’は経済・金融戦争という形態を取るに至ったと考えるべきなのかもしれません。
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なんだか話はまとまりませんが、ここいらでアップします。
危機からの出口へのアプローチ諸説紹介はまたこんど。今、(サン・ミッシェルの本屋で購入した古本3冊のうちの)一冊本読んでるんですが、仏語経済系本解読は時間がかかるのだ(すぐ眠くなるし)。。。
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追記です。最新米経済情報(ブルームバーグ);U.S. Is Bankrupt and We Don't Even Know It: Laurence Kotlikoff