ここパリではまたまた寒い日が続いています。、東京で買って来た2着のダウンコートは結局のところ零下5度以下で風が吹くと効き目なしと分かって、このところの外出にはスキー用のフードつきダウンジャケットと帽子にマフラー・スキー用手袋、足元はティンバーランドのブーツで固め、凍てついた裏道でも転倒しないですんでます。先日の雪はいい感じだったんだけど、ゲレンデもレンタルスキー屋も御近所にないのが残念でした。今年はスキーに行けない猫屋です。
というわけでこの週末も、寒いので食料買出し以外は閉じこもり状態。奈良の祖母ちゃんが作ってくれた袖なしチャンチャンコ着て、ギリシャ関連記事とかCDS/クレジット・デフォルト・スワップというのが何なのかとか、マッタリ調べておりました。
まず最初に、スティグリッツ教授のフランス・アンテールでのインタヴュー(2月12日)を貼っておきます。テーマは現行の世界経済危機について。前日に、教授はfrance3 のCe soir ou jamais にも出演してたんですが、司会のタデイの質問と教授の答えが必ずしもかみ合ってなくてがっかりした。このラジオ・トークのほうが複数のインタヴュアーと通訳者のおかげでしょう。より興味深いものなっている。ギリシャの件についても最後のほうで語っています。
ただ、教授の英語と通訳者のフランス語がどうしてもかぶってしまうので、アタクシはPCスピーカの左つまり仏語のほうのボリュームを上げて視聴しました。ちなみにダニエル・コーエン先生は、スティグリッツのことを経済学界のマイケル・ムーア、とからかっています。なお、今回はスティグリッツトークのレジュメはなしです;貼るだけ。
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以下は、ギリシャ経済危機に関して、少なくとも猫屋に分かったこと。
まずはリンク集:ギリシャ関連では、あくまで正論の13日付ル・モンド:Qu'arrive-t-il à la Grèce ?/ギリシャになにが起こったか、と12日付レゼコー誌のLes 30 jours qui ont ébranlé l'euro/ユーロを揺るがした30日、がありますが、その表層に現れていない部分、つまり格付け会社の問題やギリシャに金を貸している金融会社について、そしてそれに付随するCDSについては言及していない。なぜなら格付け会社にしても国債市場の動向にしても、さらには誰がいくらのCDSタイトルを貸し金ありあるいはなしで取引しているのか、レバレッジなのかどうかとかが分からないCDSに関しては、正統派新聞は何も書けなくなるのだと思います。さらには、それら金融商品の背後には、2007年2008年の“弱肉強食”の“淘汰”を生き延びてきた超・超大手が控えていると想像できます。
それら正当記事に先立って、早くからリベのブルッセルでEU追っかけやってるジャーナリスト(もとは国際法専門のジュリスト)のブログがかなり細部に突っ込むスリリングな記事を書いています:2月7日づけLes marchés financiers américains attaquent l'euro/米国金融市場がユーロ攻撃、それと2月9日づけのGrèce : les marchés redoutent une intervention de la zone euro
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というわけで、アタクシの頭の中はなんとも経済・金融系になっておりまして、しかし、イカンセン自分は数字オンチだしデリヴァティフなんて、とんでもテクニックな金融商品なんてのはわかんないのよねえ。個人的胆略結論は、リバレッジで一国家の破綻に賭けて金儲けしていいんですか?であります。確かに今のユーロは高すぎだと思いますが(現在一万円=80ユーロ=100USドル=70英ポンド)、だからってユーロ圏全体にこの攻撃が及んだらアタクシの生活も際限なく奈落行きでございましょう。
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出演人物とストーリーのレジュメ
格付け会社:ムーディーズとスタンダード&プアー、それとフィッチ・レーティングスの3社が大手ですが、3社とも本社はウォール・ストリート、フィッチの第一株主はパリに本拠を置いてるとのこと。で、昨年12月9日にS&Pがギリシャ長期国債をを“要注意”と評価、フィッチはギリシャの国家赤字が何年か後にはDGP(仏語;PIB)の130%になるだろうと予測した。
1月14日にはギリシャ国債10年ものの金利は6%を超え(ドイツの約2倍)、ギリシャへのCDS(大雑把にいうと、債券がデフォルトになった場合にその損害を補償する“はずの”クレジット・デリヴァティヴだが、実際の債券を所有していなくても購入できる金融商品)も暴騰(大口の買い手は大手ヘッジ・ファンド2社のようである。またCDS指数は市場においては企業あるいは地方自治体や国家の“信用”基準ともなっている)。この時点で、スペインとポルトガルの国債の金利も上昇。ムーディーズは、公的出費をドラスティックに制限しない限りギリシャとポルトガルは『ゆっくりと死んでいくだろう』と警鐘を鳴らす。右の図はこの一年のPIIGSのCDS動向(しかし、やなナネーミングであるね)。
こうやって1月も終わり近くに市場にはギリシャとユーロ圏を巡る噂が飛び交うわけだが、これを巻き起こしたのは某米国大銀行と、1月25日に公開されたギリシャ5年国債に付随するCDSを購入したが2%の利益しか得られない大手ヘッジ・ファンド2社であるらしい。ヘッジ・ファンドは売れないCDSでは得られない利益を国債の高い金利で得るために、銀行は市場で国債の買い手が見つからないギリシャ政府にさらに高い金利で金を貸す目的で、ギリシャの財政困難に関する噂を流通させ、同時にユーロを大量に売った。ユーロは下がり、“ユーロ安値はユーロ圏の崩壊のしるしではないか?”と、市場はパニック状態に陥った。
1月27日、FT(ファイナンシャル・タイムス)は第一面に、ゴールドマン・サックスの一団がギリシャの依頼で北京政府に総額250億ユーロのギリシャ国債の売却交渉したが北京は断った、という記事を載せる。記事の内容はその後否定されたものの、高レートなのに外貨があまっている中国も買わないギリシャ国債、というプレッシャーは大きく、市場のパニックをプレスが記事にすれば、それで市場はさらに動揺するという、スペキュレーションには最適の環境ができてしまっていた。これが、大手金融業社の意図したものであると立証可能であれば、かなりの政治問題を引き起こすことになる。
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一つ前の記事でも書きましたが、ユーログループ16国に対して欧州中央銀行も加盟国も直接には圏内の他国には融資が直接できないという規則がある。また国家赤字がGDPの3パーセントを越してはいけない、中央銀行は金利の(つまりインフレの)心配はするが、加盟国の内政・財政には干渉しないということになっています。これはユーロのモデルになったドイツ・マルクの影といいますか、強いマルク、強いユーロを目指したユーロ発足時からのお約束でありますね。しかし、世界同時金融・経済危機がやってきた。米国や英国でも中央銀行は政府と連結して金利操作をし、自国経済の安定化と成長を目指している御時世に、ユーロ圏の中央銀行だけはその独立性とユーロ高にこだわってる場合じゃない、と市場での攻撃がギリシャばかりではなく、ポルトガルやスペインまで広がっては他のユーロ圏の国々も、上記の市場パニックを黙ってみているわけにはいかなくなった。ギリシャ国債を最も多く所有する3銀行にはドイツ銀行も入ってますし(あとの2社は米国)、フランスの銀行もかなりの額を購入している。
IMFもギリシャへの融資を打診しましたが、これは欧州非ユーロ圏、たとえばブルガリアやルーマニアならOKだがユーロ圏内の一国がIMFのお世話になってしまってはユーロ自体への信用が下がってしまうわけです。ユーロ圏への攻撃がドミノ式に広がれば、これは欧州全体の大被害となるでしょう。
それで今週になってから、まずメルケルがギリシャを支援すると発表。ついでサルコジも(いつものごとく後追いで)同じくギリシャ支援メッセージを出す。続いてユーログループ親分のユンカーもギリシャ経済支援を公表していますが、それがどういった具体的な内容・金額になるのかは来週になってみないと分からない。一連のユーロサイドの動きから、ギリシャ長期国債の金利上昇もユーロ安のほうもいったんは収まっているようですが、まだまだこの先どうなるかはわかりません。
まえの記事にあるヴィデオ・インタヴューでコーエン先生が指摘してますが、ユーロ圏内でのソリダリテ、つまり連帯が取れてない、欧州中央銀行の発言が市場の性質を理解していない不用意なものだった。そして国内の議会や世論を無視してはユーロ圏各国政府も、簡単に対ギリシャ援助作を出せない。結果、神経ゲリラ戦を行う金融民間企業と、議会や国民を抱えた民主国家の集まりであるユーログループの、攻防戦となったわけです。
今回の騒動を期として、ユーロ圏ばかりではなく欧州全体の、経済・政治・外交の舵取りの可視性を高め、同時に市民を代表する議会の役割を強化することで、欧州機構の運営がもっと分かりやすく、有効なものになってほしいもんであります。。
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以上は、ユーロ圏内に住む市場とは何の関係もない一市民の見たギリシャ財政危機の中間報告なんですが、これが市場の中の人だったら、まったく逆の見方ができるはずだ。中の人はより多い利益を得るために時として膨大なボーナスを賭けて超複雑系金融商品を手がけている。ナンデモアリで法をかいくぐり、経済危機によって痛めつけられた国家や地方自治体や企業の弱い部分を狙う。それが市場の中の人の仕事です。
だが、市場とユーロ圏、そして“世界世論”から金融財政引き締めを要求されたギリシャで、給与凍結とやってくるだろう人員削減に反対してデモするギリシャ公務員には、同情しないではいられない。財政赤字を隠したのは前政権であり、経済危機以前にあまったキャッシュをざぶざぶ投入したのは銀行であって、難題を抱えた現在のギリシャ政府でも、自分たちの生活を守ろうとデモする公務員たちでもない。
『利益の私有化、損害の社会化』といいますが、ひらったく言えば、つまり、儲かったら銀行のボーナス・株主の利潤、大穴開いたら税金・減給・解雇で埋めましょう、ですか。まったくもってアタクシたちは、さかさまの時代に生きているのでありますね。