2007年以来、金融危機オッカケをアタクシやっているわけですが、このところに来て状況はまたしても新しい局面に突入したように思えます。
そして新しい展開があるたびに、プレイヤーたちは間違った(時としては最悪の)チョイスをし、状況はさらに悪化するという、嫌なスパイラルに私たちは閉じ込められてしまった。
今から約一ヶ月前に書き始め、EUとIMFによる巨額の救済策、および欧州中央銀行の決断(サブ・マーケットにてユーロ・ゾーン諸国の国債を買い付けるというもの)が発表された直後に書くのストップしちゃった記事を貼っておきます(捨てるのももったいないし)。記事の続きは、ゴールドマン・サックスを初めとしたメガバンク(+格付け会社)のスペキュレーションのメカニズムについて書くはずだったんだけど、複雑すぎで断念しちゃったのでした。
非経済頭脳が読む世界経済;ギリシャ財政危機からユーロ危機へ、そして世界的国家危機
ギリシャ財政問題の急速な、そして意外な拡大には、基本的に3つの原因がある。もちろん初めにギリシャの国家財政。だがギリシャのGDP /PIBがユーログループ内で占める割合は約3パーセントにしかすぎない。それがなぜここまでの大問題になってしまったかというと、対応の遅れがユーロ・グループ体質の弱さの証明として“市場”に判断され、一種の「テスト・マッチ」としてギリシャ財政が機能してしまったわけです。
2007年のサブプライムに始まった金融危機が経済危機に至り、そして国家財政危機そして今では社会危機にまで及んでいるわけだ。
最初のつまずきはポールソン案にあったんだと思う。ブッシュ米政府は(当時は誰もがそう考えていたが)膨大な国家援助を金融界に投入し大恐慌の二の舞は踏むまいと銀行救済に当たる。1929年の株価大暴落が引き起こした金融危機は1933年の米国のすべての銀行の業務停止に及んだ。その後のルーズベルトの行った政策にもかかわらず、世界全体が金融・経済・社会危機に巻き込まれ、やがて世界全面戦争に突入するわけですね。
ポールソンが考えたように、銀行さえ救えば今回の危機は収まるわけではなかったんですねえ。なぜなら、今回の金融バブル崩壊の原因は、現行金融システム構造内にあるのに、市場外部からいくら金を注ぎ込んでも、あるいはFRBがいくら金利操作をし、かついくらドルを刷っても、現行金融システムと言うブラック・ホールは吸い込む金を何倍にも増やして、さらなる生贄を求めるわけです。
かつて、円のキャリートレードで得た資金で、市場はアイスランドを破綻に追い込んだ。もっとさかのぼると、1980年代後半の日本の金融自由化の結果として、過剰なキャッシュが不動産バブルを形成した。日本はそのバブル崩壊後のデフレーションからいまだ脱出できないでいる。
同じような現象がいろんな場所で起こっているんだと思います。
ギリシャの財政危機は、2ヶ月におよぶドタバタの末、IMF介入を含めた最終的EUのギリシャ援助ということで、ドイツとフランスが合意に至った(とは言ってもドイツの保守メディアが激しく攻撃してますが、この援助はチャリティーでもなんでもなくて金利つきの借款なんですがねえ)。その同意発表直後は欧州での株価も、下がりっぱなしだったユーロも上昇。いったんは、一息つけるかと思いきや、ギリシャの発行する10年国債の金利は再び上がってしまったようです。29日月曜には6.289まで下がっていたんだが、3月31日には、6.552に上がってしまった。
アタクシにも分かった範囲で欧州国債のメカニズムを説明します。
前にも書きましたが、欧州のお約束で欧州中央銀行は欧州加盟国への直接の融資はできない。つまり欧州中央銀行は各国の中央銀行(たとえば独ブンデスバンク)には融資はできないが、ドイツバンクとか BNPパリバとかの民間銀行に金利1%ぐらいで融資する。で、これら民間金融業者が、国や地方自治体もちろん企業や個人にもですが金を貸す。あるいは公債・国債を買う。つまり、民間金融業者にとってはかなりおいしいディールなんですねえ。6.5から1を引くと5.5パーセント。たとえばギリシャが今年5月末までに必要なキャッシュはたしか25ミリヤールつまり、25 000 000 000 ドル相当で、その5.5パーセントというと1 375 000 000 ドルとなるかな。。。大体一兆7千万円かな、、、0が多すぎてよう分かりませんがとにかくギリシャのような小国が返済できる金利ではない。この金利、クーポンと言われてますがたとえばドイツの10年国債では確か3パーセントぐらいだったと記憶します。その欧州圏では最低のドイツ・クーポンと比べた数字がスプレッドでありまして、これが各国の国債のランク付けに使われてます。スプレッドが高い国債(たとえばギリシャの)はデフォルトの可能性も高いってんで金利いやクーポンが高くなる。
われらがサルコジの君の言によれば、これはシステミック危機だそうですが、今回ばかりは彼が正しい。
まずはマクロな視点で見てみましょう。サブプライムに始まった金融危機は、2008年のリーマン・ブラッズの破綻を米オーソリティが救済しなかった時点で第二段階に突入した。この時期を通して、銀行の連鎖(シスミック)破綻を防ぐため各国政府・中央銀行は、膨大なキャッシュを銀行に投入し(時としては、銀行を国有化し)た。
1929年の米株暴落から始まった大不況が約3年後、欧州に飛び火し世界金融危機=大恐慌を引き起こしたわけですが、そのシナリオを避けるため米国フェデラル・リザーブを初め、各国の中央銀行はそれぞれのやり方でキャッシュ・フローを維持しようとしたんですねえ。これは、スティグリッツ教授が危機発生以来言ってるように「大量出血している人間に輸血するようなもんだ」。まさにそうだ:重度の病症・あるいは外傷を有する患者に必要なのは、輸血と同時に問題の疾患への外科的処置なんですねえ。
さて、低金利、あるいは条件なしで国家が注入したキャッシュで生き残ったメガ・バンクは懲りもせずスペキュレーションを再開(超高額のボーナスも支給再開し)、結果として国家の負債がお化け化(オバケカ)し、まあイメージとしては「もののけ姫」の怪物みたいなもんですが、それが世界中の「市場(複数)」を徘徊することとなった。
アタクシの予想では、どこかの時点でドルの急暴落があるんじゃないかと思ってたんですが、そうじゃなくて攻撃はギリシャに行った。その理由は
* リアルとしてのギリシャ財政の抱える諸問題
* 欧州の、より限定すればユーロ・ゾーンの構造的不完全性、そしてそこでの共通金融・税政策およびリーダー・シップの不在
* 巨大化しさらに複雑化した、メガバンク(証券・保険業を含む)が、市場をカジノ化し、ダーク・プール、リバレッジ、ショート・セリングといったテクを使って短期で最大の利益を上げるようになった。同時にそのメガバンクはそれぞれの国家政府に対して強力なロビーイングを展開、対する政府はメガ・バンクへの規制ができない。
以上、コピペおしまい(若干書き直しました)。
さて、以上の文章を書いたあと、いったい何が起こっているのか。
ソウルで行われたG20 もたいした決定はできなかった。このところのトレンドは皆さん御存知のようにユーロ・ゾーンに限らない諸国の財政悪化なわけですが、不況に押され税収入が収縮した国家(ギリシャ・スペイン・アイルランド・英国・フランス)は次々に財政引き締めを発表。そしたら今度は「市場」はこりゃさらに不況になるじゃん、と反発。いたるところで株は下がるし、ユーロも下がるし、スペインは格付けのAがひとつなくなっちゃった。おまけに今度はハンガリーをめぐってスペキュレーションが始まった。ギリシャを始め、各国(ドイツは除いて)の国債金利はまたしても上昇している。ルブロット(ブロットというカードゲームの再開の時に言う言葉なり)!
まあ、いろいろ陰謀説もそこここに広まっておりまして、ドイツの“有力紙”デア・スピーゲルまで、ギリシャ救済策は実は自国の銀行を救いたいフランスの陰謀だと言ってるし、こちらフランスでは、米国や英国の負債はもっと規模が大きいのに何で欧州の国ばかりが攻撃されるのか、これはアングロ・サクソンの陰謀だ、と言ってる。
これはどちらも、必ずしも間違ってはいない。そもそもポールソンの救済策だってそうだったし、各国の政府も中央銀行も彼らのメガバンク破綻を食い止めるために、巨大な金額を注ぎ込み続けているわけです。たとえば、欧州中央銀行の金利は1パーセント前後で、一般銀行間の貸付が滞っている現状から、キャッシュを放出していますが、そのキャッシュは実体経済に流れるのではなく、スペキュレーションやキャリー・トレードに運用されてしまう。出口なしです。
各国の財政引締め政策で、不況から脱出するための政策はもちろんストップ。公務員の数が減らされ、一般市民への援助がカットされ、国内消費はがた落ちになる。企業はモノが売れなくて法人税も少なくなりますから、結局国家に入るべき税収入は減る。同時に、失業率はどんどん上がり、一般人の貯金率が高まる(つまりますます消費しなくなる)。これがデフレ・スパイラル。
たとえば、米国の財政悪化もかなりなもんで、これ以上は銀行を救う財源はないでしょう。ギリシャ危機に関して、オバマ米国大統領が電話で何回も救援を拒むアンゲラ・メルケルを説得したり、ガイトナー米財務長官が欧州と英国をまわり各国首脳と会談したのも、危機が米国経済に及ぶのを恐れたからです。なぜなら、米国メガバンクのギリシャ国債所有量は少ないけれど、米国銀行の関与度が高い(不動産バブルが破裂した)スペインそしてアイルランドに火の粉が飛べば大変なことになる。そういうわけです。
ガイトナーは欧州での“ストレス・テスト”実施を示唆したそうですが、これはどれだけ米国がユーロ金融危機からの影響を恐れているかを示しています。
今のところ、ユーロの下がり具合は対ドルで120、対円で109あたりに止まっていますが、これは中国が“ユーロ買い”をやめないと発表したから。輸出国家中国としては、市場としての欧州圏の破綻は困るわけです。同様な理由から、中国は米国の10国債売買操作で米国への影響力を維持している。
米国のサブ・プライムから始まった(プライベイト)金融危機が、世界規模での国家財政危機へと発展しようとしている。これは21世紀の世界銀行網が複雑に絡み合って構成されていることが大きな要因です。サブ・プライムはじめ汚染債券は、世界をカバーするメガバンク網を伝って未だに世界中の銀行に保有されていて、たとえばドイツバンクやミズホもかなり持ってるはずだ。
関係ないんですが、先週だったかニッケイ読んでて、ノムラのエグゼキューティヴにロンドン・ゴールドマンサックスの中の人2名が任命されたと知りました。日本の国債は九割がた国内に流通してるから今のところは8パーセントなんていうサラ金なみのクーポンを支払う危険はないのでしょうが、あのニュースはなんだか「気味が悪い」。貸付銀行は例外としても、日本の保険や証券には外国資本が多く入ってるし、地方自治体はその資金繰りをかなり外国資本に頼ってるはずだ。。。
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さて、長くなっちゃったんでここれでやめますが、これから何が起こるのか。あるいは何が起こらなければならないのか。可能な解決法は?とかは、またいつか書きます。
少なくとも、今の時点でアタクシに分かっていることは、今回の金融・財政危機はヨーロッパに限定されたものではありえないこと。早かれ・遅かれ、米国と米国ドルにも攻撃は向かうだろうということ。現時点では中国が大きな鍵を握っていること。
この危機の基盤を作ったのは、ブレトン・ウッズ体制崩壊後のサッチャー・レーガン政策に起因する金融自由化再編成と世界自由競争に起因する賃金の低下、生産過剰、失業の増加、格差の拡大なんだと思います。
アンゲラ・メルケル女史の読み違いについても書くつもりだったんだけど、またあしたにでも:なお、右の図は世界各国の労働単価変動。1998年を100とした2008年での労働価格の変容です:オルターネイティヴ・エコノミクス紙のL'Allemagne, victime du tout export/ドイツ、輸出依存政策の犠牲者、という記事から借りてきました。
日本がかつて経験したように、ドイツにしても中国にしても買手がいなくなったら物を作っても売れないよ、と言う話です。
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どうも今回の危機は「ケインズ」を越えて「マルクス」の領土に近づきつつあるように思える。ストラス・カンのあとのIMF理事は中国人になるんじゃないか、という噂も流れているようです。現行「資本主義」が崩壊して、「共産資本主義」時代が来るんですかあ?(← 単なる猫屋の悪い冗談です)。
冗談ではなく、今は「労働」と「貨幣」が大問題なわけで、マルクスの「資本主義」第4章の仏語新訳版がかのベンサイドの序文つきで出版された(6月4日)のを買っちゃおうかと思っとります。Les Crises du Capitalisme
/資本主義の危機ですね。章のタイトルだけ貼っておきます。
LES CRISES COMME MANIFESTATION / 表明としての危機
DES CONTRADICTIONS DU CAPITALISME / 資本主義の矛盾
LES CAPITAUX ET LES MARCHANDISES / 資本と商品
LA SURPRODUCTION / 生産過剰
LES METAMORPHOSES DE LA MARCHANDISE ET LA FONCTION DE L'ARGENT /商品のメタモルフォーズと貨幣の機能
LES DIFFERENTS TYPES DE CRISES DU CAPITALISME / 資本主義危機の異なったタイプ
LA CRISE DE SURPRODUCTION GENERALE / 全体的生産過剰の危機
DESIR ET DEMANDE SANS LIMITE SELON SMITH ET RICARDO / スミスとリカルドによる限りなき欲望と需要
LES CRISES DU CAPITALISME ET LES BESOINS DES TRAVAILLEURS / 資本主義の危機と労働者たちの必要
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(マルクスと並べるのはさすが気が引けるんですが)もう一冊読みたい本がマイケル・ルウィスのThe Big Short
読みやすい米発ベスト・セラーとはいえ英語版はちと辛い(仏語訳が出るのは9月予定):小説の形をとったこの本は、ウォール・ストリートの若いトレーダーが扱うショート・セリングの、恐い話だそうです。