スイス美貌の魔女、mari さんから宿題を頂きました。3日間と短かったものの、入院とか手術とか慣れない状況から戻って“シオシオノパー”状態なんだし、お答えしましょう、と請け負ったわけだけど、泥縄でいろいろ文献調べる時間も気力もない。まあ、ポリティカリ・コレクトな回答は、ググれば各種オフィシャル・サイトにたんとあるだろう。それに、ヨーロッパって何ですか?と聞かれたら約4億5700万人(25カ国 後記:こうやって書いてみるとスゴイですね、この人数。半端じゃない)のヨーロッパ人はそれぞれ違った答えを出すだろうし、ここではね式のどこまでも個人的欧州観を書いて見たいと思います。
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もう20年も昔の話、パリ某大学の外国人学生相手の経済仏語講座で当時のEECについて先生によるレクチャーと、世界中から集まった学生による発表にディスカスというのを経験しました。まだスペイン・ポルトガルが加入したての頃だと思う。日本を飛び出したばかりだった若年猫屋にはどうしてもイメージしがたい構想だった。遠い島国から来た若造には、欧州内諸国の、そのまた中の地方の持つ多様さに目がくらむ思いがしたのでありますよ。
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母体としての平和
EUの母体になったのは、WW2 直後にドイツとフランスの、もう2度と戦争はすまい、という考え。最初は当時の産業ネックだった石炭と鉄鋼資源の仏独共同管理という概念を、1950年仏外相ロベール・シューマンが発表。これが51年に仏・西独・ベルギー・オランダ・リュクソンブルグ・イタリアからなるECSC/ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体になるわけだ。この後、山あり谷ありのEU歴史が延々と続く。(この先もまだまだ続くと信じたいもんだが。)
私が強調したいのは、EUの発端が戦争回避のために構想された産業資源管理から始まったことだ。ミッテラン・コール仏・独カップルが強調したのもこれであり、多くの仏独シニアーが誇りとするのも、国家間の紛争が作ってきた世界史においても“平和”をベースとして構想された共同体現実化は始めての実験だ、という点だろう。もちろん、単に経済ゾーンとして欧州を捉えるなら、例はほかにもある。
紛争
ボスニア紛争時のあの長く暗い無力感は(その後もリストは終わらないのだが)、1989年のベルリンの壁の崩壊とともに、多くの西ヨーロッパ人の記憶に焼きついている、と思う。地続きの、飛行機に乗れば2時間かそこらでいける場所でヒドイことが起っている。エスニック・クレンジング。“国家”が内部から崩壊し、分割し、争う。おまけにそれを抑えるだけの力も知恵も自分たちは持っていないと言う自覚から、超国家としての欧州が国家・宗教・民族・部族分裂をストップさせる枠として機能すべきなのではないか、またNATOとは別枠の欧州共同軍隊をもつことで米国軍隊に頼ることなく欧州防衛が可能となるだろう、という発想が欧州人にも生まれたと思う。
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上に書いた欧州防衛構想は、2001年の出来事をきっかけとして元来はノンポリ“平和主義”者にも多く共有されるようになったと考える。イラク戦争開始前夜の、国連安保理事でのやり取りと、欧州全体で広まった反イラク攻撃運動はご存知の通り。猫屋はあの時期、英・仏語で、そしてル・モンドやクーリエ・インターで読んだ欧州プレス記事を通して、初めて明確な形で“欧州市民”意識が存在するのだな、と納得した。同時に、《l'autre / 他者》を前にして出来あがる《nous/我々》という概念についても、これはニュートラルな意味で、実感した。
資本主義あるいは市場主義、そして市場原理主義
ベルリンの壁が崩壊し、ソヴィエトユニオンが崩壊。中国共産党も今は転換期に入ろうとしている(と見る)。共産主義が現在の世界で可能だとは誰にも言えないだろう。だが同時に、ソヴァージュ/無法な市場原理主義が持てる者と持てない者の格差をますます大きくし、経済活動が富と知識を流通させない方向に暴走、資本は常により安い労働力と低い企業負担、あるいは産業導入に必死な国家からの援助を求めて世界を放浪する。そしてその国の《競争力》が枯渇すると、つまりたとえば国家経済力がつき労働賃金も上昇すれば、資本は再びより競争力のある土地を目指して去っていく。
50年間にもわたるソヴィエト・ユニオンの衛星国として《計画経済》を強いられてきた東欧諸国にとって、今回のフランス国民投票の“市場主義拒否、社会主義擁護”論は理解しがたいのではないか。 実際には完全な“自由貿易”というのは歴史上にも存在しないし、完全な“共産主義”も歴史的に見て存在できない、としか言いようはない。社会主義vs資本主義という対立概念でこれからの経済を見るべきではないだろう。
欧州拡大
上にも書いた、東欧諸国/ニュー・ヨーロッパが現ロシアの影響を離れ、NATOに加入、同時にEUゾーンに組み込まれ経済持ち直しにかかりたいという願いは理解できる。ただ、現在のEU様相を見て、逃げ腰の国はあるだろうな。15カ国から25カ国への拡大のスピードは加速しすぎの印象が確かにある。(歴史・地理音痴は名前を覚えきれない。) しかし、『入りたい国は入れますよ、条件さえそろえば』というのがノリであったから、なんとも言えないわけだ。ただ、当初は理想主義に過ぎるとフランスでも批判された“死刑撤廃”が、今では現実となっている欧州という事実は書き加える価値があるだろう。これは既に経済圏枠を超えた“政治”に属する事象である。
宗教、トルコ
パリに住む無宗教(どちらかと言うと仏教徒)の東洋人、ね式的には、『ギリシャとキプロスが入ってなんでトルコは駄目なのさ』となる。私の知っている欧州は、多国籍多宗教多言語の西ヨーロッパだけだ。この多様性が欧州のパワーだろうし、マリンヌ・ル・ペンの言う“玄関も窓も全部閉めて鍵をかけた安全なフランス”に興味はない。たとえばフランスだけに限っても、他国からやってきた祖先を持つ住人を全部追い出したら、現人口の半分以上はいなくなるんじゃないか。
もちろん一神教のどれかのかなり信仰心の強い欧州人の考えるトルコ像はまったく違ったものだろう、が。
移民、産業空洞化
EU憲法がらみで言えば、ニース協定に基づく欧州にして既に(猫屋を含めた)これだけの移民がいるわけで、憲法が成立したとしても別になにも変わらないと思われる。ムスリム系移民にアレルギーするのは理解できる。しかし実際のパリ感覚では、市内でじわじわと拡大する中華圏のほうが目に付く。その話を近所のバー・カウンターの横にいたおっさんにしたら、『あんたねえ、パリってのはいつだってそうだったんだよ。心配すんない。』と言われてしまった。猫屋アジア人、そのおっさん、多分フランス人(ポーランド系とかアルメニア系かも知れん)。なお、フランス人口が内包するムスリム系およびジュイッシュ系住民比率は欧州でもっとも高いそうだ。
ニュースで、今日はナントカ社が工場閉鎖、xxx人解雇です、とか聞かされるのは辛い。工場親会社のCEOが厖大な退職金ゲットしてリタイアなんて聞くともっと腹が立つ。どーせ、選挙権のない猫屋ですから、シラクのせいEUのせい、とは言わない。EU枠で考えたほうがいい、と考える。
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長くなってしまいました。ここでストップ。読み返さずブログにコピ・ペストします。やっつけ宿題レポートでゴメンナサイ。
今日の拾い物:アンチョコにと思ってウィキペディアのEUページ、仏語版・英語版・日本語版見てみたんですが、それぞれ違っていてその違いが面白い。
拾い物 2:スラヴォイ・ジジェクの《Revenge of Global Finance》英語版です。ル・モンド・ディプロの5月号掲載(らしいが買ってない)のものかも。スター・ウォーズIII と現行資本主義についての論説。生き残りたかったら仏教徒になれ、だそうです。