ということなんだと思う。
ニコラ・サルコジが仏共和国大統領に就任して9ヶ月がたった。Rupture を看板に、すべてが可能だ、もっと働いてもっと稼ぐのだ、自分は購買力の大統領だ、フランスを近代化するのだ、タブーもコンプレックスもない透明化なのだ、言ったことは実現するし嘘は絶対つかないし期待を裏切ることも決してない、私はフランス国民全体の大統領なのだ、成長率は噛み付いてでも確保する、退職者の年金は5年で25%アップする、5年で完全雇用を実現する、セシリアは美しい、ウンヌン。たしかに、Rupture は現実化した。Rupture とは、断絶・切り離し・破棄・解消・絶交・破戒・決壊・急変、のことである。
多くの人々が「サルコジなら、変われないフランス・システムを変えうるだろう」と考え、大統領に選んだ。だが、どう変えるのかについては、誰も明確なヴィジョンを持ってはいなかった。
おぼろげに、アングロサクソン型の新資本主義体制への移行が用意されるのかと思われた。
そうではなかった。サルコジがまずやったのは、高所得者層が対象の減税と、自分の給料の172%値上げと、離婚と再婚と、共和国政治システム内の職務枠取り外しと、オープン政治と名付けられた対抗勢力の無力化と、顧問の権力増大と、議会および内閣の権限の縮小(セルヴィス・ミニマム)と、労組および学生組合の弱体化と、警察権力増大と、司法システム解体と、政治の宗教介入と、労働市場の流動化促進と、教育界の産業化促進と、刑法改革と、大型会社経営者への法的規制緩和と、メディアと内閣および大統領府との相互リクルートと、大統領の私生活公開だった。ああ、外務省の「貿易振興省」化もあった。「文化」の産業化もあった。米国が失ったもうひとつの戦争、アフガニスタンへの派兵増員や、プロ・イスラエルへのシフトもある。
いや、別にもうアタクシが書くことなんてないんだけれど、肝心なのは、サルコジが共和国システム自体を破壊してる、ということなんだ。
社会を壊すことは簡単である。社会をここまでになしてきた歴史を無視して、別の国家を作り上げることは難しい。
サルコジは壊すことを知ってはいても、何かを作り上げることはできないだろう。ニッポン国の某首相が、ニッポン国の“古臭くなった”システムを壊したのと、結局は同じである。
内側から共和国に浸入していた、数字世界(経済成長率・雇用率・統計統計)が、表看板を取っ払ったこの国で、大手を振って活躍しはじめる。確かに、サッチャーとブレアのたたき直した英国の成長率も失業率も、フランスのソレと比べたら見事なもんである。だが英国にしろ米国にしろ、トップ経営者や大株主やシティやウォール・ストリートの数字アタマのトレーダーを抜いたら、後の人口はビンボー化あるいは超ビンボー化路線をたどってる。
15ドルを越えたユーロと、106ドルを越えた(イラク戦争以前には25ドルだったんだぜ!)原油価格と、ますます激しくなる中東内複数紛争と、アフリカ・南米の政治不安定と、原油価格上昇で力をためるプーチン・ロシアと、イランとサウジと、戦争とサブプライムの終わらない危機で脱ブッシュを図る終わり行く帝国と、世界資本をしだいに手中に収めつつある中国・インドそして産油諸国と、実際の権力を握る軍産・医療・金融・石油産業と、増大する世界人口に必要とされる食料の不足と、それらをネタにこれまた加速するスペキュレーションとM&Aとエコシステム破壊があるわけだ。
米ドル帝国の衰退を喜んでいる場合ではない。ネオ資本主義を支えるドルを囲い込んでいるのは、アジアの中国・日本、そして産油国家群である。かつて信じられていた、民主主義は資本主義の発達とともに形成されるという発想が、結局のところ冷戦終了時に萌芽し、911を境に実態化したこの世界ニュー・オーダー、つまり新資本至上主義つまりネオ資本主義時代には、単に米国の軍産植民地政策としての永久戦争外交の「いいわけ」でしかなくなってしまっている。
世界地政学図は、すっかり書き換えられ、これからもこの地すべりは加速はしても、止まることはないだろう。
ある意味で言えば、ニコラ・サルコジ、あるいはバディウの言うところのサルコジという名の示すものは、この世界地政学的変動がコーラテラルに生み出した“現象”のひとつなのだろう。
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雲の中で生きてるスーパー・エリート、ジャック・アタリによれば、現在の世界経済システム、つまりネオ資本主義システムは必然的に、国境を、つまり国家を、同時に文化を破壊する。この動きは誰にも止めようがない。だが、価値(家族・国家・文化・社会etc.)の破壊が飽和状態に達したとき、別の動きが生まれるだろうと、彼は言う。参考:テレビ討論 Ce soir ou jamais quel avenir nous annonce-t-on ?
なぜなら人間は、今猛烈に進んでいる個人主義を限界まで生きることはできないからだ。
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人間は、機械にも数字にもなれない。
ひとまずは残ったものを(国家・機構・政治・社会・連帯・文化・歴史・愛)を擁護することから、始めるしかないのだろう。
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本文とはなんら直接の関係はない参考(書いた後で見つけた)クリップ、
ル・モンド記者ジェラール・クルトワの記事、《サルコジ、あるいは大統領の変わり身》
こちらは経済記者エリック・ル・ブッシェによる記事、《表か裏の勝ち負け》
猫屋さん、はじめまして。こんにちは。
サルコジ氏とロワイヤル氏の大統領選TV討論会の夜、20区のケバブ屋さんでご飯を食べていて、「どっちを支持してる?」と店のムッシュに聞かれ、「セゴレン!」と答え、みんなで盛り上がったのを思い出しました。
結局サルコジ氏が当選し、フランスにもグローバル資本主義の波が押し寄せるのだろう。。と漠然と思っていたものの、共和国システムの破壊にまで及ぶとは。。
しかし、従順などこかの国民と違って、フランスの国民は彼に対してそろそろ何らかの意思表示をするのでは?と期待しているのですが。
投稿情報: kay | 2008-03-10 15:55
Kay氏、
思えば、大統領選からは永遠とも言えそうな時間が経っちゃった。
こちらの変動はすごいです。特に物価上昇と、住民の元気低下。
少なくとも、誰かがどこかで流れを変えんといけんわけです。レジスタンスの気概だけでも継続させないとね。と、いうわけで各人自分ができることを、できるときにする。自分がダメになっても、誰かがそれを引き継ぐ。結果、ね式ブログはサルコ・ウォッチャー化しちゃったのでした。ちゃん・ちゃん。
投稿情報: 猫屋 | 2008-03-11 00:50