TVを見て心配したいとこから、おとといメールがありました。私の住んでいる界隈では何も起こっていません。パリは燃えていません。大通りに警官は多いですが、これはいつものことです。みなさん、ご安心ください。こちらの報道では昨夜(いくつかの都市に引かれた外出禁止令以前ですが)放火された車の数は減少したとあります。
基本的にTVのニュースは見ず、紙版新聞とネットのル・モンドとリベに眼を通すのと朝ラジオニュースを聞くぐらいの生活ですから、実際に、たとえば燃やされた車や商店街を目撃はしていません。
今回の“限定的衛星都市に起こっている一部の若者の行動”については、いったん落ち着いたところで、社会的背景や政治経済的背景を含めネブロで扱おうと思っていたのですが、海外での関連報道にかなり混乱が見えるようなので、いくつか気がついたところをメモしたいと思います。
なお、ほぼご近所のShibaさんが関連エントリを書いていて、そちらに猫屋もコメントしましたのでご参照ください。
・アメリカや、ロンドンなどとは違いフランスでは低収入家族はパリなどの大都市中心部ではなく、衛星都市の大型HLM/アシュレム/国家管理の公団住宅に多く住んでいます。そういった地区では、医療設備がない、、社会福祉設備が少ない、商店街がない、近郊に企業がいつかない、といったないないづくしの状態が、それらの建設された1960年代から続いている。今回話題になっているそれらの地区には、、北アフリカ系、ブラック・アフリカ系、ユダヤ系フランス人に中国・べトナム系とネイティブのフランス人たちが住んでいます。彼らは時として二重国籍を有していますが、多くの場合フランス国籍を持っていますから、フランス人です。今回騒動を起こしているのはこれらHLMにすむ孫の世代の若い衆だと思います。
・そういった失業者の多い地区での死傷事件や“祭り”的屋外駐車の車への放火は今までにも定期的に起こっています。例年ストラスブール郊外などでは年末に多くの車の放火があります。今年の夏にもトゥルーズ郊外であったような、警官が未成年者を間違って死傷させる事件も多いのです。けれど、今回のようにTVで大きく報道され、その結果として騒動が全国のHLMや小都市に広がったのは初めてです。またサルコジ内務相はこの“郊外地区対策”の失敗は社会党に責任あるといった旨の記事をル・モンドに書いていますが、サルコジ氏はこの三年間のシラク政権で内務省の長であった期間は長く、またこれらの地区における教育・保安・市民団体援助金を大幅に減少したのも同じシラク政権だったことも忘れてはいけません。
・Shibaさんブログのコメント欄にも書きましたが、内務相サルコジと首相ド・ヴィルパン間の抗争がメディア合戦に移行した経過があると思います。これは今の段階では判断できない。もう少し時間が必要でしょう。
・海外メディアの扱いにはかなり的の外れたものがあるようです。今日はTVニュースを久々に見たのですが、海外メディアの反応としていくつか紹介していました。米国FOXはフランスは燃えているというテロップつきでフランス地図の各所に火事マークを張って見せていました。CNNもフランス地図を示していたようですが、その地図はスペイン近くのトゥルーズがスイスとの国境近くに、イタリアに近いはずのカンヌがスペインよりにあるものでした。たしかにイラク戦争前国連安全保障理事会で米国と対立したフランスの“移民対策”という失敗を大きく報道することに、なんらかの利益があることは想像できます。日本メディアのあつかいを私は知ることが出来ませんが、往々にして日本での報道のリソースが米国メディアである以上、私のいとこの心配にも根拠があるわけです。
今回の出来事の原因は単にフランス移民政策の失敗ばかりとはいえません。ひとつの事象にはひとつの原因がある、というのはあまり“正当な”見方とは思えない。世界中の若年層の示すアグレッシブ/暴力性についてももっと大きな視野での論評があっていいと思います。
こちらでも批判の多い外出禁止令についてなどの考察は時間が出来次第、またフランスでのペーパーメディアを一巡してから書きたいと思います。
なお、この秋にフランス旅行を計画している方々に。
観光客が通常行くところでは一切問題はありません。