ダニー・ザ・レッド(緑の党)が極めて分かりやすく、アイルランドの拒否後の問題を、ル・モンド読者相手に説明しています。彼の政治的見解には同意できない人にも、参考になるよね。なんと3ページあるんですが、ゆっくり訳します(でも話体だから訳のほうもリラックス、通訳風にあんまり厳密性にはこだわらんですので、よろしく)。
コーン-ベンディット氏:「欧州理事会の議長国フランスには不確かさがある」
ル・モンド・ウェブ 2008年6月19日
ル・モンド・ウェブのチャットに招かれた緑の党欧州議会議員は、「フランス大統領は君臨する」が、「欧州大統領は必要なコンプロマイズをオーガナイズする」と評価する。「問題は、ニコラ・サルコジが(他者を)聞く耳を持っているかどうかだ」と明言した。
ディディエbsl974:アイルランドにおける「ノー」の勝利の、根本的な理由をどうのように分析しますか?
Daniel Cohn-Bendit : 2・3の本質的理由があります。ひとつは、大体首都(ダブリン)のバスに描いてあったように:「今のままのヨーロッパでアイルランドには充分だ。」 それに1970年代から、アイルランドは400億ユーロ近くの補助金を受け取っている。 ヨーロッパはアイルランドを活性化(原文;a boosté)した。 だから、リズボン条約がもたらす結果の不確実性に直面して、アイルランド国民の多くがこう言ったんだ:ヨーロッパを今のままにしておこう。
第2の理由は:一部の人口、どちらかというと原理的キリスト教徒が、性的選択の自由を認めるという基本人権憲章にショックを受けて、この開放性に反対した。
第3は:首相を初めとするアイルランド政治家たちとマグリーヴィー(McGreevy)欧州委員は、読んではいないがこの条約はアイルランドのためになると、公けの場で発言している。この政治家たちの遁走を前に、「ああ、これは複雑すぎるんだからノーと投票しよう」てのが勝ってしまったんだ。
さらにもっと倒錯した最後の論議がある:討論であるアイルランド人は言っていた:リスボン条約では、アイルランドは欧州委員をひとり失う。 労組から来たノー支援者は、市場に向けられた、つまりネオ・リベラルを目指したヨーロッパは社会的獲得権を疑問視すると言う。 だが同時に、アイルランド欧州委員が国内市場政治の責任者であって、何かにつけて彼が自由化を推し進めてきたんだ。
こんなところが、人口の半分は投票に出かけなかったし、過半数-10万人の選挙民はノーと言った、その理由の部分的解説です。
エマニュエル:、条約のひとつかふたつの部分を変えて、もう一度アイルランドで国民投票を実施する、と言う話がいろいろなところで出てきています。でも、アイルランドがその要求を全部満たしていることと、今回のアイルランドのノーも決して統一性があるわけでゃないということを前提として、どんな改定が可能なのでしょうか?
Daniel Cohn-Bendit : この指摘には同意見です。 ただひとつ可能な解決法は、25あるいは26の国々が批准したとして、アイルランド政府は国民投票をして次の質問を問うことができるだろう:われわれはリスボン条約を受け入れる、だからイェスだ;もしノーなのであればわれわれは欧州連合からのアイルランド脱退を交渉する。そしてEUとアイルランドの親密なパートナーシップを交渉しよう。つまり、国民投票結果に現実的意味合いを持たせるわけです。
lol :ヨーロッパ建設にどんな影響があるのでしょうか?
Daniel Cohn-Bendit : わたしは批准推進派ですが、このノーの連発を軽く受け取るべきではないと思っています。
それは単純に、ヨーロッパというプロジェクトがなんだか分からなくなってると示していて、つまりどの国にもある政治的危機と政治自体が、極端な強さでもってヨーロッパに追突したわけです。ヨーロッパはネオリベラルの悪魔として認識されてしまった。
だから、社会・エコロジー・民主主義プロジェクトを中心に据えた、ヨーロッパ必要性の確認を再び打ち立てる試みが必至です。
長期的には、そのために、国民国家の傍らに、ヨーロッパ憲法、グロバリゼーションや気候状況悪化、多軸世界ガバメエントの必要性、世界レベルでの人権と法国家の擁護などに対峙するヨーロッパの必要性を明確にするヨーロッパ憲法の問題があって、この再基盤づくりはヨーロッパの決定プロセスを通して行われるわけで、単にひとつの国家でなされるわけじゃあない。
ヨーロッパ国民投票の可能性を開くことで、たとえば、ヨーロッパ選挙での超国家ヨーロッパ・リストが必要だし、ヨーロッパ・アイデンティティの基礎となるヨーロッパ公共空間の構造化も必要だ。
アンデルセン:アイルランドがEUから脱退ですか?でもそれは制度から言って不可能なんじゃないですか?
Daniel Cohn-Bendit : 憲法条約についての考察のなかに、五分の四の国々がすでに批准した場合、欧州連合理事会は条約を継続すかどうか決定すべきだ、と言う意味の決まりがあった。だから、このロジックに従って、26国とアイルランドの交渉は進められるべきだと信じます。
確かにこの状況は難しいと言えますが、ひとつの国が単独で、他の26の国を封鎖してしまうとは想像不可能だ。だからこの際、権力に想像力を加えねばいけないわけです。
アクセル:あなたの解決策では、速さの違うふたつに分断されたヨーロッパを作り上げることになりませんか?
Daniel Cohn-Bendit : わたしたちのヨーロッパには、いくつもの速度があります。ユーロ・グループとその他の国々。シェンゲンのヨーロッパとその他の国々。これが気に入るか気に入らないかは別として、ご覧の通りなんです。
もしも統一化されたヨーロッパが、一緒に行うべき山ほどの事例があるのに、それが出来ないというんでは、これは単一速度のヨーロッパではなくて、単に片足しかないヨーロッパでしょう。
したがって、わたしたちの問題とは、自由貿易ヨーロッパしか望まない国々を解放して、政治ヨーロッパを望む人々に、政治過半数に従い、税制協調と社会アイデンティティとエコロジー責任という方向に向かうヨーロッパを定義する可能性を与えることです。
ニコロ:26カ国は26の人民というわけじゃないでしょう、ムッシュー・コーン-ベンディット。なんで国民が受け入れなかったテキストにこだわるんですか?
Daniel Cohn-Bendit :だからこそ、私がテキストを作って、住民にゆだねたいわけなんです。
で、私は想像する、私が夢見るのは、憲法制定議会が、前に言ったようなヨーロッパを定義し、それがヨーロッパ国民投票にかけられることです。このテキストは、もし二重の過半数を得た場合に適応されるだろう、つまり 人々の過半数と、それに少なくとも半分の国々プラス・ワンだ。
それから、このテキストを拒否した国々は、その時点で国民投票によってこの憲法のヨーロッパに加わりたいのか、あるいは、ヨーロッパ統合への参加を中止して、この新しいヨーロッパ連邦とのパートナーシップを交渉するのかを決めるわけです。
ジョゼフ:なぜ、欧州機構の機能を決める条約といった複雑なものを国民投票にかけなくてはいけないのですか?
Daniel Cohn-Bendit : 私が話しているのは、新しいテキスト、つまりシンプルで10ページぐらいの、誰にでも読めるし理解できるといったもので、これまでの条約すべてを包括はしないけれども、でもなぜヨーロッパなのか、このヨーロッパの機構とは何なのか、その機能と民主的オーガニゼーションとは何なのか、複数の機構間のつながりが何なのか、それにわたしたちの共同アイデンティティを明確化する基本的権利を憲章 、という基本線を定義するものです。
基本的権利憲章を批准しないという可能性を与えるというのは理解できない。 フランスでの表現を引けば「opting out(訳注;これはdérogation でいいのかなあ、、例外処置あるいは特例か)」 ですが、この「opting out」はヨーロッパ思考のまったく倒錯した創作なんだと私は言いたい。共通の価値を持ってるから一緒にいるわけで、じゃなくて、それらの価値を認めないなら一緒にいることはできない。
ギーB:条約へのアイルランド拒否投票は、将来の議会がその憲法を準備するよう、次回の欧州選挙を利用するいい機会ではないでしょうか?
Daniel Cohn-Bendit : たしかに、その可能性はあります。問題は、そのために欧州理事会がまず次回の議会は立憲議会になると決めなければいけないことです。
ヨーロッパの抱える問題から考えると、私には、欧州議会代表、国家議会と政府を含んだ立憲評議会(une convention constituante)が適切だと思えます。
前回の評議会とはちがって、政府間会議は立憲評議会での妥協案を変更する権利がないわけです。これが、前回の憲法条約に関する件で、欧州理事会が、評議会に何の相談もなしに、テキストに第3部を書き加え、評議会はこの委員会決定を適用するという悲劇がおきました。(訳者注;この第3部は市場や自由貿易といった経済用語を多く含み、フランスでの国民投票の際オルター・グロバリ派ノンの論拠となった)
トマ:欧州決定機関の判断は、ますます不公平になってるように見受けられます(週65時間労働、ジャベル漂白剤ニワトリ、強圧的『帰還基準』)。
Daniel Cohn-Bendit : ご注意あれ:わたしたちは緑の党として、帰還命令に対しては、強く反対した。不幸なことに、イタリアでの選挙結果やサルコジの勝利、ドイツでの大同盟などを見ていると、今のところ、人々の過半数が私たちもポジションよりも、帰還基準により近い。
人々を善なるもの、そして政府を悪なるものと解釈してはいけません。 ヨーロッパにおける政府の反動的多数派は、不幸なことですが、主権者である人々によって民主的に選ばれている。 フランスで帰還基準について国民投票を行ったら、残念ながら、私たちは敗北するでしょう。
それに、連合の40パーセントの国々では亡命申請者や非合法滞在者は皆無だというのに、議会の過半数が、この基準に亡命申請者や非合法滞在者の権利を強引に加えている。
ケミ:ヨーロッパ連邦(une Europe fédérale)には賛成ですか?
Daniel Cohn-Bendit : 議会機構においては連邦的だし、理事会機構が政府間的なわけで、現在のすでに先取りされたヨーロッパ・コミュニティ自体が、妥協の産物といえると思います。
そして、委員会がこの共同体妥協の結果になっている。私はコミュニティとしてのヨーロッパ強化に賛成です。
ペリュッツ:コミュニケーションばかりではなく、結局のところ「ヨーロッパ」教育にも、決定的不足があるとはお思いになりませんか?
Daniel Cohn-Bendit : 確かに、ヨーロッパは充分な熟考の対象になっていない。教育においても、パブリック・オピニオンにおいてもです。たとえば、生徒や学生の交換(留学)プログラムは今の10倍になってしかるべきだと思います。大幅な投資ができるとしたら、まさにそれでしょう。
その上、各政府を教育しなくてはなりません。あの有名な言葉:「これはブルュッセルの決定だ、市民にはヨーロッパの決定は理解できないのだ」といって、政府がすべてをヨーロッパに押し付ける間は。
ブルッセルなんて存在しない。欧州連合理事会があり、そこではすべての国の政府が集まって会合を開く。ヨーロッパ議会があって、過半数を得た政治家が意見を表明する。経済と社会に関しては、この議会は中道右派であり;社会と公的自由に関しては、どちらかと言うと中道左派に近い、 したがって、ブルッセルで決定されること自体が政治パワー・バランスの結果なんだと、理解する必要があります。連合理事会の各政府の過半数が保守であり、議会での過半数を占めるということです。
クラフトヴェルク:ヨーロッパのサルコジ議長席に何を期待しますか?どういった印象をおもちで、また、ヨーロッパ他国、特にドイツにどう受け取られているのでしょうか?
Daniel Cohn-Bendit : 議長国フランスについては不確かさがあって、EUのフランス議長国をサルコジがフランス式の職務にしてしまわないか、という疑いがあります。フランスでは第五共和国憲法にしたがって大統領が統治するわけですが、欧州大統領は必要とされるコンプロマイズ(妥協)を調整する。話し合いを活気付け、課題を引き出すことに努める。問題は、ニコラ・サルコジが聞く耳を持っているかどうかにかかっています。
反面、フランスが議長国になることでの、新しいイニシアティヴにも期待しています。気候悪化に対応すべき気候関連政策の山をさらに推し進める、やっとハマスと話し合うため中近東問題でイニシアティヴをとる、パレスティナでの生活条件の改善を助ける目的でパレスティナ政府と話し合うこと、などです。
同時にイスラエルとも話し合い、コロニー政策と、壁とチェック・ポイントからくるるパレスティナ市民の窒息状態を再び問題化する条件で、連帯合意を話し合う。つまり本当のギヴ・アンド・テイクのネゴシエーションです。
ヨーロッパはイスラエルを支持し、したがってヨーロッパはパレスティナ国の創立を、財政的・政治的に支持するわけですが、同時にヨーロッパは政治的条件も課すわけです。
フィリップ:フランスで多くのエコロジストが、ジョゼ・ボベからニコラ・ユロまで、緑の党も含めたエコロジー政治を代表する流れを作ろうとしています。この種のユニオンには賛同しますか、するとしたらそれが現実化するためにどんなストラテジーが必要だとお考えですか?
Daniel Cohn-Bendit : 今これは話し合いの段階です。ニコラ・ユロは自己の政治参加について別の見方をしているという問題があります。私は、エコロジー政治空間の再構築に賛成です。欧州選挙が、いいチャンスとなりえます。
このエコロジー空間でのノニスト(欧州憲法批准国民投票での反対派)とともに、わたしたちは、どうしてヨーロッパ政治強化が必要とされなければいけないのか、なぜならわたしたちが直面している問題は国家単位では解決できないからだ、という点を明確化しなければなりません。
ヨーロッパに対し、社会の安全性を高める目的のたったひとつのヨーロッパ社会政治を、ヨーロッパへの「ウイ」を擁護してきたエコロジストとともに、わたしたちは明確化する必要がある。私は、緑の党の夏セミナーで、このイニシアティヴについて話し合うつもりです。
ルラ:クロアチアのEU参加はこの(訳注;アイルランドの)「ノー」によって危うくはなりませんか?
Daniel Cohn-Bendit : 今の時点では、改革に対する避けがたい皮膚反応をポジティヴに迂回しない限り、ヨーロッパ拡大は難しいと見ます。
ニコロ:68年5月運動の元リーダーだったあなたにとって、現在におけるユートピアとはなんですか?
Daniel Cohn-Bendit : (68年とは)まったく違ったものです。リスボン条約が批准されないと想像してみましょう。議会での議席分配はニース条約に準拠し、92議席を保持するドイツを除き他の国はかなりの議席を失うことになり、結果すべての国々にとっての山ほどの問題を生むわけです。それに対して、各政府は政府間ミニ評議会を開いて、ヨーロッパ議会での各国の議席を再調整することになります。
もしそうするなら、なぜ同時にヨーロッパ選挙のルールを変えてこうは言えないものでしょうか:ヨーロッパ政治グループの選挙リスト(PPE;Parti populaire européen、保守、リベラル、緑の党、共産党... )筆頭者がすべての国で立候補できる。そして、それがヨーロッパレベルでの真のヨーロッパ議論が可能となる基盤の輪郭つくりになるでしょう。
つまり、たとえば緑の党が、フランスとドイツとイタリア等々でおなじ選挙リスト筆頭者を立てるわけです。これは他の党もおなじ。選挙後、単に彼らはこういうわけです:私は自分の議席をドイツに置く、あるいはイタリアに置く、、、そしてその国以外では、リストでの選挙ですから、リストに続く人間が選ばれるわけです。 したがって、わたしのユートピアとはばかげたほど単純なものです:ヨーロッパの議論を伴った本当のヨーロッパ選挙という夢です。 ヨーロッパという想像力が権力である本物の議論です。
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個人的緊急事がボッパツいたしまして、一週間ほど翻訳をぽっぽり出す結果になってしまいました。ついに、あしたからフランスの欧州議長国がオープニングです、どうなることやら。
なおアタクシ的ボッパツ事の移行についてはまた書きます。
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